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2011年12月31日 (土)

「時が滲む朝」と「昭和の化石」

芥川賞を受賞した楊逸氏の「時が滲む朝」を読んだ。選考委員の石原慎太郎が風俗小説と酷評したが、読んで面白かった。最近、小説を読むことはなかったが最後までそれなりに面白く読めた。人の批評というものは十分の一の能力があれば可能だ。石原新太郎の中国政府嫌いには共感するが、だからと言って楊逸さん個人を「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」はないだろう。価値観も多様化している現在、日本の若い女性作家が受賞するより、はるかに納得する。海かと思うくらい広い揚子江や戦後の焼け跡かと思わせる広州空港など仕事柄1980年代の中国を見る機会は多かった。そして、香港返還前にバンクーバーやトロントの町は中国人の留学生で溢れかえっていた。楊逸さん自身もハルビン大学を中退して日本に渡ってきたことは天安門事件が大きく影響しているのだろう。言うだけ番長の若い政治家や「昭和の化石」のような都知事より、歴史体験から搾り出した小説をリスペクトしたい。石原慎太郎は「歴史の報復」で、『宗教の独善がもたらした中世における、エルサレムの占拠を巡っての十字軍なる愚挙が歴史の中に長い尾を引いて、さらにキリスト教圏の白人によるイスラム教圏の民族への植民地支配がかの地での抑圧と憎しみを増殖し心理的に深い溝を造成してきた。そしてそれが今日の世界での激しい対立意識を加速している。宗教的な信条としてテロによる死を恐れぬ、歴史を背にした死を賭しての報復の遂行を無上の光栄とする、襲われる側からすれば狂信的な、攻撃側の姿勢は今後も防ぎようあるまい。』と言っている。石原慎太郎は、狂信的と簡単に決めつけるが、そうであろうか?
キリスト教のモーセ五書はユダヤ教徒・イスラム教徒も同じであるから歴史的にユダヤ教とイスラム教は同根である。そして、イスラエルは聖書にあるように、神からの約束の地であるカナンは、ユダヤ教徒の領土であると考えている。イスラム教徒のパレスチナ住民は、自分たちの神への不忠義が災いをもたらしたものと考えている。2000年前にローマ帝国に最も激しく反乱したユダヤ教徒が現在のパレスチナのイスラム教徒のイスラム原理主義の姿である。神は、アブラハムが息子イサクを生贄にするような忠義を求めている。死を賭しての報復は当然だといえる。石原新太郎の尊大で羞恥心のない様は「老害ナベツネ」と同じだ。他人への批判の前に「新銀行東京の失敗」「高額なホテル宿泊費」「身内の息子への賄賂紛いの配慮」など真摯に反省すべきだ。

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