複合機各社の戦略の違い
複合機各社の戦略の違いについて、キヤノンと富士ゼロックスについて比較すると以下のことが見える。キヤノンはシステム上流のアプリケーション作成ツールや電子帳票のミドルウェアから末端のプリンタ/複合機までをシームレスに提供する会社であるが、富士ゼロックスはシステムの一部という視点でしかプリンタ/複合機を捉えていない。
1.キヤノン製品の特徴
・キヤノンは店頭販売のプリンタsateraシリーズから複合機・高速プリンタに関してもアプリケーションに依存しない形で最後の一枚まで完全に印刷可能で、全てのプリンタが同一に定義可能なPDL(LIPS)を登載している。
・キヤノンソフト情報システムの「複写インパクト・プリンタからレーザプリンタへのシステム移行ソフト」については、IBM SNAのオンライン処理LU1/3のプリンタ定義、接続形態を正確に踏襲した移行システムソフトである。
・System i(IBM AS400後継)の半数がキヤノンソフトのWeb Performerを導入している。
(要件定義からプログラミングレスでjavaソースコードを自動生成するIBM WebSphere6.0上の開発ソフト:IBMでは過去にCOBOLよりRPG言語でアプリケーション開発が行われていることが多かった。)
2.キヤノンの統一した戦略
実際、キヤノンのシステム関連のミドルウェアやアプリケーション開発ツールなどは全てLIPS(キヤノンPDL)を印刷ファイルとして吐き出すため上流をキヤノンのソフトに抑えられれば他社のプリンタは導入できない。 また、一旦アプリケーションの開発が終われば、改めてプリンタ導入のために変更をかけることはない。例えば、IBMのSystem i(AS400後継)最大のディラーであるJBCCの標準プリンタはキヤノンの複合機である。キヤノンのプリンタであればサーバ主導のリカバリーなどをサポートしているためSEがアプリケーションでリカバリーを意識する必要がない。そして、UNIX,LINUXで運用することやWindowsのGDI(ドライバー渡しの形式)の誤差を考慮すれば統一されたPDLで直接書いた方が運用管理し易い。 富士ゼロックスはPSに変換して対抗するが、アルゴリズムが違う言語の変換は不可能であり仮に変換しても全てのアプリケーションからの印刷結果について評価する工数が発生する。つまり、上流を押さえられるとプリンタ側の対応は容易でない。欧米はHPのPCLがデファクトスタンダードであるため全てのアプリケーションがPCLを印刷ファイルで吐き出す。OEMベンダーが欧米対応で、PCLエミュレーションが必須なことを考えれば容易に理解できる。
上流システムを理解してないと、端末がWEBやAjaxで開発されているためオフィスで基幹系システムを使用していることに気づいていない。つまり、ネットワークコンピューティングのシステムの一部という視点でプリンタ/複合機を捉えていない。(パブリシングは除く)
富士ゼロックスやリコーは、ドキュメントセントリックという言葉を使用するが、情報産業界での環境は、IBMなどが言うIPセントリックという状況である。そして、基幹系・情報系が全てIPネットワークで結合されその上に複合機・プリンタなども取り込まれた。
3.プリンタベンダー各社に何が求められるか?
システムベンダーは顧客システム資産の移行が重要課題で、DB構造、オンライン、プログラム言語、JOB制御、リモート出力などプリンタより上流課題が優先される。
一度、出力部分をキヤノンなどの複合機でシステム設計を整えれば工数の発生する新たなプリンタや複合機を仕様化することはない。一般のSEは、その業種の業務フローを理解して顧客と会話できる専門家であり、プリンタなどの知識は少なくアプリケーション層で会話可能なプリンタベンダーを重宝する。(プリンタ価格よりSE工数の方が、はるかに高くつく事が多いため)このため、アプリケーション層で顧客と対話ができないプリンタベンダーは重要商談から徐々に淘汰されるであろう。複合機・プリンタなどの切り口は重要であるが、顧客指向というなら上流(アプリケーションなどサーバ資源)からの視点でシステムを捕らえることが優先される。そして、全社的な統一した方針でハードのみではなく神経に相当する運用管理部分を含め将来を見据えた開発投資が求められる。システムという観点からは、ハードはミドルウェアソフトの下位層に位置付けられる。更に、SEから見れば、SI (System Integration)に有益なソフト以外は重要視されないという現実がある。SEやソフト部隊と対等な立場に立って本質的な議論ができないハード会社は、今後淘汰されていく。イノベーションを起こすにも、今日を正確に捉えないと明日の影も見えない。
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