還暦過ぎて、人生を振り返れば
伝記を映画化した作品に影響を受けて、好きになった歌手や曲は多い。「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」のジョニー・キャッシュや「Coal Miner’s Daughter/歌え!ロレッタ愛のために」などがそうだ。アカデミー主演女優賞を受賞したリース・ウィザースプーンやシシー・スペイセクは映画中の歌をすべて自分で歌っている。彼女たちの演技力の高さに感心させられる。相手役の夫に扮するホアキン・フェニックスやトミー・リー・ジョーンズも日本で有名な俳優さんだ。ロレッタ・リンの「Coal Miner’s Daughter」は、貧しい逆境でも、愉しく生き抜いている炭坑作業員の娘の歌だ。自分自身を歌ったものだろうが、「貧しかったけれど愛があったわ」「石油ランプの光の側で聖書を読み」「父さんは炭坑作業員の給金で八人の子どもを育てて愛してくれた」「私は炭坑作業員の娘であることを誇りにしているわ」など心にしみわたる歌詞が続く。昔の歌は曲だけでなく歌詞も聞かせるものが多かった気がする。時代が違うといわれれば、それまでだが、「浜崎 あゆみ」や「宇多田ヒカル」はいまだに理解不能だ。唱歌など学校で歌わなくなった曲は多い。当時の価値観を押し付ける、「仰げば尊し」など時代錯誤の歌はどうでもいいが、「二十四の瞳」「火垂るの墓」中で使われた「埴生の宿」など音楽の授業で習うのだろうか?「埴生の宿」とは、赤土で造った粗末な家という意味らしいが、それに続く文語体の歌詞も格調高く美しい。
埴生の宿も わが宿
玉のよそい うらやまじ
のどかなりや 春のそら
花はあるじ 鳥は友
おお わが宿よ たのしとも たのもしや
ふみよむ窓も わが窓
瑠璃の床も うらやまじ
きよらなりや 秋の夜半
月はあるじ むしは友
おお わが窓よ
たのしとも たのもしや
田舎出身の身には、「ふるさと」の歌詞も、小さい頃に過ごした雪国を思い出させる。
兎追いし かの山
小鮒釣りし かの川
夢は今もめぐりて
忘れがたき ふるさと
何にいます 父母
恙無しや友垣
雨に風につけても
思い出ずる ふるさと
志を 果たして
いつの日にか 帰らん
山はあおきふるさと
水は清き ふるさと
還暦過ぎて、人生を振り返れば、住宅ローンの返済や子育てで「志を 果たして いつの日にか 帰らん」ということを考える暇もなかった。
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