人口減少時代に郊外拡散を止める施策
富山市がOECDによって、メルボルン、バンクーバー、パリ、ポートランドと肩を並べて、コンパクトシティの世界先進モデル都市に選出され話題となった。そのコンセプト「コンパクトシティ」は、世界の先進都市が、人口減少時代に適応した郊外拡散を止める施策として取組んでいる。富山市は人口約42万人の中核都市だ。しかし、人口減少と超高齢化の進展、モータリゼーションへの過度な依存、中心市街地の魅力喪失と深刻な課題を抱えていた。自動車保有台数は、全国第2位、通勤目的では83.3%と、中核都市で最悪なクルマ依存都市だ。地価の安い郊外に居住地が拡散し、全国中核都市43ある中で面積は1番広く、人口密度は下から2番目と低い。中心市街地人口は10年間に2桁も減少し、起死回生策が求められていた。そこで、富山市が地方都市の一つの未来像として取組んだのが、「コンパクトなまちづくり」だった。その起爆剤として、廃止予定のJR富山港線を引き取りLRT化した。そして、既存の市内路面電車と拡張したLRTを相互乗り入れさせて排気ガスのないバリアフリーの高齢者向けの街づくりを目指している。
LRTは世界各所で普及しているが、日本では富山市LRT以外は実現せず、ようやく宇都宮で計画が進んでいる。LRTの主な反対理由は、「大通りを塞いで自動車交通の邪魔になる」「LRT導入で路線バスからの乗り換えを強いられ、不便になる」「(宇都宮市の場合)400億円もの巨費を投じて運行しても採算が合うはずがない」などが挙げられている。また、海外LRTでは、公共交通に独立採算が求められず、運営費にまで税金が投じられていることを指摘する。税金を投じてLRTを普及させることは、モラルハザードを招くというが、道路拡幅などに、多額の税金が使われている事実が忘れられているようだ。反対派からは、車社会からの脱却や新しい公共交通政策のあり方について、全く将来の展望は語られない。ところで、愚生の育った富山市の路面電車は、5~10分間隔で、乗車が少なくてもシャトル的な運行がなされている。最長でも10分待てば、電車が必ず来るため日中はバスより早く正確に目的地に行ける。富山の路面電車は、富山駅と中心街を経て南富山を結ぶ。また、富山駅から富山大学、富山駅と岩瀬浜(富山港)をLRTで結ぶためほとんどの旧市街地は、路面電車で結ばれている。東京では、都電が地下鉄に移行した。一方、地方都市では、車社会の到来で路面電車が廃止になった。富山市でも廃止になった路面電車の路線は多い。しかし、古くから敷設された路線には、多くの高校や大学が効率的に点在していたため、多くの路線は(市の補助金はあるが)採算性がよく廃止を免れた。そして、今日の高齢者社会を迎えた。これからの先進都市は、拡散から集中というコンパクトシティ機能が求められ、その中核をバリアフルーのLRTが担う時代となった。モノレールや地下鉄は、バリアフリーからはほど遠く、あくまで車社会を前提にした公共交通だ。高齢化社会の進行や、ガソリン価格の高騰によって、これまでのように車の所有自体が難しい状態になってくれば、出来る限り多様な公共交通機関を使えた方が便利だ。宇都宮LRTは、宇都宮市と隣接する芳賀町の東西約18kmを結ぶ計画だ。LRT事業は軌道部分を宇都宮市や栃木県などが公共事業として建設し、運営主体と分ける上下分離方式をとる。昔からあった路線を使う富山LRTと、今から新規に建設する宇都宮LRTを同列に論じることは比較にならないという意見はある。しかし、富山市のJR富山港線は、乗客減→列車本数削減→乗客減→列車本数削減・・・という悪循環を断ち切って再生された路線だ。宇都宮LRTの反対者は、ヨーロッパの路面電車(LRT)は観光用だとの主張だが、ヨーロッパの多くのLRTは通勤や通学、中心市街地への買い物にも使われている。宇都宮市LRT計画が、妥当かどうかは愚生に判断はできない。東西南北に市街地が近代的に整備された富山市と違い、宇都宮市は一歩主要道路を外れれば袋小路のありさまだ。確実に言えることは、高齢化社会を迎えた今、個人の車保有が難しくなる中、コンパクトシティ実現への取り組みが早期に必要だ。
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