楽しい時のみ長く感じる
この歳になって、過去を振り返ると過ごしてきた時間の感じ方はずいぶん違う。保育園の記憶といえば、食料がなかった時代のせいか、昼食に「おから」を毎日食べたことだ。いまでも、おから料理を見ると気持ちが悪くなる。我が家では、絶対におからは食卓に出ない。小学生の思い出は、担任が6年間すべて女性教諭だった。そのため、当時の女教諭がすこぶる厚化粧だったことと、彼女たちの気分に振り回されたことを思い出す。記憶を辿っても、覚えていることが少ないせいか非常に短く感じる。中学時代は、思春期の始まりで、燃えるような恋はなかったが、女性を強く意識した。当時、楽しかったせいか、夏休みなどなければいいと思った。人生で一番輝いた時期だったかもしれない。当時の記憶が鮮明に残っていて、3年間が非常に長く感じる。次の高校時代は、暗黒時代だった。進学校に進んだせいもあって、鶏口牛後という諺をしみじみと味わった。思い出したくないこともあって、非常に短く感じる。人生、あの時代を耐え忍んだせいで、新約聖書 ローマ書第5章「艱難は忍耐を生じ、忍耐は練達を生じ、練達は希望を生ず。」という聖句を体験した。その後、辛い時があっても挫けることはなかった。親が裕福だったため、地元の大学には通わず、地縁・血縁のない地域でのアパート生活だった。親の監視から逃れ、酒・たばこ・女性と自由を謳歌した。夜を通して、青臭い女性論などを語ったことを思い出す。たった4年間だったが、未だに人生の記憶の大部分を占める。当時、知り合った女性たちが、いまどうしているかと思い浮かべると、非常に懐かしく感じる。人の記憶などいい加減で、楽しい時のみ長く感じるようだ。還暦を過ぎた愚生に、これから長く感じるような体験はあるのだろうか?寂しい気持ちになってしまう。
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