「女心と秋の空」
「女心と秋の空」という故事がある。意味は、変わりやすい秋の空模様のように、女性の気持ちは移り気だということらしい。愚生の母は、いわゆる戦前教育を受けた一人娘の跡取り娘だった。お嬢様育ちで、小さい頃から遊び相手にと母のために女中を雇っていたという。戦時中でもコメや砂糖もあったから、不自由はなかった。そして、家でぶらぶらしていると、女子挺身勤労令によって工場などでの勤労労働につかされるため、縁故採用で銀行に勤務したと話す。小さい頃から、不自由なく育ったせいだろう。母は、我慢をするということができない性格だ。親父が人と話をしていても、関係なく割り込んでくる。電話で話をしていても、平気で他人の批判をする。愚生も聞いていてハラハラさせられることが多かった。祖父母や親父が死んだ後、周りで母を守ってくれる人がいなくなり辛いことが多かったようだ。自己中心的な物の見方が強いため、愚生が遠路遥々慰問に行っても自分に会いたいから来たと思うらしい。そして、また愚痴を言いに来ても良いなどと、頓珍漢なコメントをする。ご近所さんが来ても、寂しいから自分に会いに来たと思うらしい。そして、母は自分の思い通りに行かずに感情が崩れると、相手が傷つくような言葉を選んで罵詈雑言を放つ。先日、長野の介護施設まで会いに行ったが、愚兄や邪な兄嫁が何を吹き込んだかしらないが、不愉快千万な対応だった。いったい、愚生の何が悪いのかと問うと、そうではないという。つくづく「女心と秋の空」という故事が頭をよぎった。母の頭から、疑念が消えるまで待つしかないという心境だ。そのせいか、気が重い毎日が続く。毎日、何があっても泰然自若でぐっすり眠れる人を見ると羨ましい。
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