子孫に美田を残さず
バークシャー・ハザウェイの年次株主総会の記事が載っていた。ネブラスカ州オマハには約4万人の株主らが世界各地から集まった。バークシャーは投資会社のイメージが強いが、M&Aを通じて保険や鉄道、エネルギー関連など事業会社を傘下に収めて、巨大な複合企業となっている。その時価総額は約55兆円にもなる。今回の注目は、マゾン・ドット・コム株を初購入したことだ。バフェット氏の投資方針は、「割安株投資」であるかた、アマゾンドットコムはその原則に沿ったものなのだろうか。愚生は、割高だと思いSell in May前に利食い売りした。もう少し長く持つべきだったのかと心が揺れる。このニュースが流れた後、アマゾンドットコム株は上昇したから、バフェット氏の神通力はたいしたものだ。バフェット氏は、「バリュー(割安株)投資の父」といわれるベンジャミン・グレアム氏から薫陶を受けた。アマゾンの予想PER(株価収益率)は71倍で決して割安とは言えないはずだ。しかし、ここ最近のハイテク株が牽引する株高で「バリュー投資の死」がささやかれる。バフェット氏は「バークシャーの投資哲学は変わらない」と強調。アマゾン株の購入は、「バリュー株投資の原則に完全に沿っている」と説明する。足元の価格だけをみて割安かどうかの判断はしない。将来の成長性や財務諸表に表れない価値などを考慮すれば割高ではないと言う。バフェット氏は、アマゾンについて小売業者として「強力なブランド力を築いている」と評価した。こういう話を聞くと、年初にアマゾンドットコム株を全て売ったのは、稚拙だったと悔やまれる。しかし、愚生は高齢者の域に達して年金も頂いている身分だ。老い先短いから、今更、貪欲に金儲けに固守することはないだろう。そこで、慰めに西郷隆盛の言葉を思い出す。「子孫に美田を残さず」という名言だ。ところが、これは正しくは、「児孫の為に美田を買わず」と言う漢詩だった。西郷隆盛は、維新の最高功労者の一人として、二千石の恩賞を与えられることになった。この時、西郷は「最大の功労者は、維新を実現する為に命を落として戦った人々であり、自分は彼らのお陰で功労者になっただけだ」と断った。大久保利通が無理やりこの恩賞を西郷に受け取らせようとした時に、大久保に贈った漢詩の一部が「児孫の為に美田を買わず」だったと言う。その全文は、『幾たびか辛酸を歴(へ)て 志は始めて堅し。丈夫は玉と砕くるとも甎の全きを恥づ。我家の遺事 人 知るや否や。児孫の為に美田を買わず。』という漢詩だ。どうも「児孫の為に美田を買わず」は、子孫を甘やかすなという意味ではないようだ。西郷の真意は、私利私欲に走り、贅沢三昧に耽る政府高官たちをやんわり批判した言葉だとも言われる。そういう愚生も、内心は悔しさでいっぱいだ。
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