M&Aは手段であって妨害ではない。
IT競争政策を所管するFTCは、フェイスブックに「インスタグラム」と「ワッツアップ」の分離を求めている。しかし、5年以上も前にはFTC自身が承認した案件だ。愚生はフェイスブックが将来、インスタグラムが手ごわい競合相手になると思い市場から消し去ったとは見ない。そして、ライバルがいなくなった結果、技術革新が失われたとも思わない。フェイスブックが現在は独占的地位なのはわかるが、不当に維持しているとは思わない。アマゾンやマイクロソフト、アップルなどと違い製品を売って対価を得ているわけではない。SNSとして便利だから多くの人が使用しているのだろう。日本国内では、どちらかを選べと言われれば、圧倒的にLINEの方が多いだろう。実際は、ほとんどの人は両方を使い分けている。コンピューターの世界は、最終的にアプリケーションがすべてだ。情報産業は何故米国を中心に革新的な変革が起きるのだろうか。極東の島国では、どうしてダメなのだろうか。何故、欧州のコンピューター企業が没落したのだろうか。そしてIBMと7人の小人と呼ばれた企業はその分野で敗れ去ったのだろうか。それは、コンピューター開発や設計に携われば容易に理解できる。仕様書もプログラムのすべて英語だからだ。そして、英語という共通の手のひらの上での競争だからだ。英語に近い欧州の言語を使う市場は、米国とほとんど同時に侵攻された。極東の日本は、コンピューターの文字は二バイトで拡張して使用されている。中国や韓国も同様だ。欧米で発売された後、半年くらい遅れて市場に提供された。それは、ウインドウズが世界同時に提供されるまではそうであった。その遅れの間隙を利用して、日本のコンピューター企業は生きながらえてきた。FTCが今頃になって提訴するのは、遡及法を作るようなものだ。インスタ買収は2012年に無条件で、ワッツアップ買収は2014年に条件付きで承認した。要するに、デジタル市場の変革を当局が予見できていなかったからだ。マーク・ザッカーバーグは、対照的に市場や技術の未来を見通せるが故に買収した。ザッカーバーグは、競争するよりも買ってしまったほうが早いという考え方だったのだろう。ガラケーのままであれば、インスタグラムは普及しなかった。スマホが爆発的に増えたから市場がインスタを要求したのだろう。当時、巨大なグーグルやマイクロソフトという企業が市場になかったわけではない。ザッカーバーグは当時「インスタはいかに美しい写真を撮るかという点に注力していて、我々は機能・ブランドともに大きく後れを取るかもしれない。これこそが大金をつぎ込む理由だ」と社員に説明していた。そして、「インスタがそうであったように、ワッツアップも我々の先を行っている」と買収に走った。しかしながら、2012年の買収時にはインスタはわずか従業員13人で売上高もほとんどない状態だった。はっきり言えば、インスタグラムを成長させたのはザッカーバーグなのだ。同様に、ワッツアップも米国市場では、今ほどの地位は確立していなかった。FTCには見えない2社の潜在的な将来性がザッカーバーグには見えていたという能力の差だ。IBMがマイクロソフトに敗れたのは、ビルゲイツという先を見通す先駆者がいたからだ。そのマイクロソフトの頸木から離れてグーグルが起業できたのは、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンという傑出したスタンフォード大学の学生がいたからだ。アマゾンのジェフ・ベゾスやイーロン・マスク、ソフトバンクの孫正義などが企業を育てたのであって、M&Aは手段であって妨害ではない。競合潰しの「キラー買収」というなら、フェイスブックの力を削ぐには、ザッカーバーグにフェイスブックの経営を止めさすしか手はない。イーロン・マスクの宇宙船事業や電気自動車事業は、金があれば誰でも参入は可能だった。しかし、イーロン・マスクがいなければそれは成功していなかった。
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