「定跡」が次々と覆る
日経新聞に藤井時代の将棋界という記事があった。藤井竜王は、王将戦で渡辺王将を破り最年少19歳6カ月で五冠を達成した。このシリーズの中で指した「▲8六歩」という手が反響を呼んだ。控室で検討していた神谷八段が「これがいい手だというなら、私が習ってきたことはすべて間違いだったということになる」という奇抜な手だ。自陣の守備ラインを上げる手で、相手の攻めを誘発する常識外れの一手だ。しかし、これは類似した局面では将棋AIが時折示す手だった。多くの棋士は修業時代に身につけた指し方にとらわれ、AIの手を受け入れられないという。愚生には、難しくてよくわからないが、AIが導き出す手だ。古い棋士は、先入観で指せない手だという。ただ、藤井竜王と長年、練習将棋を指してきた永瀬拓矢王座は「王将戦第1局で現れた相掛かり戦法では▲8六歩がありうる手だというのは知っていた。ただ、あの形で、というのは知らなかった」と語る。藤井の強さをじかに感じ取ってきた永瀬は「『AIの手』といっても、藤井さんだから指しこなせるのであって、まねしないほうがいい」という。今の将棋界では棋士たちが研究にAIを採り入れることは普通だ。その結果、将棋を指す上でのセオリーともいうべき「格言」や、最善とされる手順を示す「定跡」が次々と覆る。愚生のような昭和の化石は、玉は金銀三枚で囲え、玉飛接近は避けろ、居玉で戦うな、というような教えは現代将棋では通用しない。最近のトップ棋士の棋譜で、居玉の戦いなど珍しいことではない。肉を切らせて骨を断つといった攻撃的な戦いが多くなった気がする。愚生の若い頃は、堅守が良いとされていたから、ずいぶんと定跡も変ったものだ。ところで、藤井竜王に限らず、渡辺名人や永瀬王座ら、多くの棋士が数十万~百数十万円の高性能なパソコンを購入し、自宅で研究に励む。ただ、AIを導入したからといって全ての棋士が強くなれるわけではないようだ。AIが示す手順を暗記するだけでは実戦では通用しない。その後、自分が指しこなさないとAIは手助けにはならない。AIの感性を自分のものにできなければならない。中終盤の複雑な局面では、AIの手は難解すぎて人間には指せないという。だが、藤井竜王の指し手は、AIの最善手と指し手が一致することが他の棋士と比べて格段に多い。難解な局面になれば藤井竜王のCPU(思考能力)が相手棋士より上回るため、愚生は早々と藤井勝利を確信する。
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